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2023年7月11日
相続
遺産分割手続を進める中でしばしば「使途不明金」が問題になることがあります。
相続人が被相続人名義の預貯金の取引履歴を取り寄せて過去の入出金を調べていくと、思いも寄らない多額の金銭が引き出されていた事実が判明することがしばしばあります。
もちろん、被相続人本人が引き出したとか、誰かに指示して代行してもらったのであれば問題はありません。
しかし、引き出し時点での被相続人の心身の状況からすると、およそ被相続人が自分の意思で引き出したとは考えられない多額の引き出し履歴があることもあります。
とりわけ、相続人の誰かが高齢の被相続人の身の回りのお世話(特に金銭の管理)をしていたというケースでは相続人間の対立が先鋭化しやすいといえます。
このような使途不明金の法的性質ですが、生前の被相続人は、無断で預貯金を引き出した者に対し不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権(以下では、不当利得返還請求権等といいます。)を有すると考えるのが一般的です。
これは債権という財産なので、被相続人が死亡すれば相続人に相続されますが、このように数量的に分割できる債権(これを可分債権といいます。)は、遺産分割を経ずとも、相続開始とともに当然に法定相続分に応じてに応じて各相続人が分割して取得するとされます。
例えば、被相続人甲の相続人が甲の子A、Bの2名であったとして、Aが甲の生前に甲の預金口座から無断で200万円を引き出したとします。
このとき、甲はAに対し200万円の不当利得返還請求権等を有しますが、甲が死亡すればこれが法定相続分(各2分の1)に分割されて、A、Bは100万円ずつの不当利得返還請求権等をAに対して有することになるのです(ちなみに、Aについては債務者と債権者の地位が混同して100万円の債権は消滅します)。
このように使途不明金は法律上当然に分割されるので、遺産分割の対象とはなりません。
そのため、もし遺産分割協議や調停がまとまらずに遺産分割の審判に移行した場合でも、遺産分割の審判の対象外とされてしまうのです。
その結果、遺産分割手続のみでは使途不明金の問題は解決できず、使途不明金に関与した相続人を相手に別途民事訴訟を提起せざるを得ないことになります。
もちろん、実務上は遺産分割協議や調停の中で使途不明金問題も含めた解決を図ることが一般的ですが、当事者間の対立が鋭く遺産分割協議が成立しない場合には、別手続で使途不明金の問題を解決せざるを得ない事態もありうるのです。
使途不明金に関する個別の問題は、いずれまたご紹介したいと考えています。
※なお、近時、最高裁は、預貯金債権(可分債権の一種です。)は遺産分割の対象になるという判断を示しました(最高裁大法廷平成28年12月19日決定)が、不当利得返還請求権などの他の可分債権はこの判例の範囲外と考えられています。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年5月5日号(vol.280)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。