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2023年6月12日
コラム
「田んぼの持ち主様へ
Twitterの投稿より
カエルの鳴き声による騒音に毎年悩まされています。
鳴き声が煩くて眠ることができず非常に苦痛です。
騒音対策のご対応お願いします。
近隣住民より」
Twitter上でこのような貼り紙が添付されたツイートが話題になっているようです。
私の実家も京都の山奥にあるので、家の周りには田んぼが多く、毎年夏が近づくと夜毎にカエルの鳴き声が聞こえてきたものです。
「おぼろ月夜」という童謡にも「蛙の鳴く音も鐘の音も」と歌われていますが、カエルの鳴き声は晩春から初夏の風物詩であり、何となく郷愁を感じさせるものと言えます。
もっとも、田んぼのカエルが鳴くのは通常一匹や二匹程度ではなく、何十匹ものカエルが一斉に鳴き出すことが多いです。そのため、近くで聞くとなかなかの音量であることも事実です。
カエルの鳴き声が騒音に当たるとして田んぼの所有者に対しその防止を求めることが法律上可能なのでしょうか。
一般に、建築工事などによる騒音が周辺住民の受忍限度を超えるものである場合には、人格権に基づいて損害賠償請求や差し止め請求が可能とされています。
その際には、以下の要件を満たすことが前提となります。
①被告の行為を原因とする騒音が生じていること
②①の騒音が原告の受忍限度を超えるものであること
これによると、カエルは田んぼに自然に棲みついた生き物ですので、田んぼの所有者がことさら人為的に流入させたなどの事情がない限りは、①の「被告の行為を原因とする」という要件を充足しないと考えられます。
また、カエルの鳴き声は自然界に元から存在する音で、季節による一過性のものですので、②の受忍限度を超えるような騒音とまでは言いにくいように思われます。
実際の裁判例でも、隣家の池のカエルの鳴き声が騒音に当たるとして駆除を求めた事案があります(東京地裁判決令和3年4月23日)。
この事案で、裁判所は「カエルの鳴き声は、自然音の一つであり、あえて大きな音を発生させるような被告による作為があったなどの特段の事情がない限り、騒音には該当せず、社会通念上受忍すべき限度を超えるようなものとはならない」として、「本件では、そのような特段の事情は認められないから、カエルの鳴き声が、原告の受忍限度を超える騒音に当たるということはできない」と判示しました。
極めて穏当な結論だと思いますが、騒音と訴えた側を単なるクレーマーのように処断するのもいささか早計な気がします。
社会の多様性が進み、様々な考え方や価値観を持つ人が増えるにつれて、今後似たようなトラブルは増える可能性があります。
その場合、自然音と騒音の区別や受忍限度の範囲についてより丁寧な検討が求められることになるのではないかと思います。
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