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2023年5月10日
コラム
私たちが日々生活していく中で、隣人との関係を良好に維持していくことはとても重要です。
もっとも、土地が隣り合っていると、一方の土地を利用しようとすれば、もう片方の土地の利用を妨げてしまうこともしばしば起こります。
民法にはこのような隣接する土地同士の利用の調整に関する規定があり、これを「相隣関係」と言います。
2023 年4 月に施行される改正民法は、所有者不明の土地に関する諸問題の解決を目的としていますが、今回の改正に伴い相隣関係に関する規定の一部も見直されることになりました。
現行の民法には、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。」という規定があります(民法209 条1 項)。
もっとも、ここには「請求することができる」としか書かれていないので、隣地の所有者や使用者(以下では、まとめて「隣地所有者等」といいます。)が所在不明の場合には、使用を請求しようにも現実的に困難であるといった問題が生じます。
そこで、改正後の民法では、以下の場合には、必要な範囲内で隣地を使用することができることとされました(改正民法209 条1項)。
① 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
② 境界標の調査又は境界に関する測量
③ 越境した竹木の枝の切取り
つまり、一定の場合には、隣地所有者等の承諾がない場合でも、隣地を使用する権利が
あると明記されたのです。
もっとも、一方で隣地所有者等の利益を保護する必要があることから、隣地を使用する場合には、あらかじめその目的や日時等を隣地所有者等に通知しなければならないとされています(同条3 項)。
ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、隣地の使用を開始した後に通知すれば足ります(同但書)。
差し迫った事情がある場合(例えば、隣地との間のブロック塀が崩れかかっている場合)や、隣地所有者等が所在不明の場合などが、このような場合に当たるでしょう。
現行の民法には明文の規定はありませんが、他人の土地や設備を使用しなければ、電気、ガスや水道といった各種ライフラインを引き込むことができない土地について、その所有者は他人の土地へ設備を設置したり他人の設備を使用したりすることを請求できると解されています。
ライフラインは生活の基盤であることから、このような使用請求権があると解釈で認められているのです。
改正後の民法では、この点を権利として明記することとし、土地の所有者は、他の土地に設備を設置したり他人が所有する設備を使用したりしなければ各種ライフラインを引き込めない場合には、必要な範囲内で、他の土地への設備の設置や他人が所有する設備の使用ができることとされました(改正民法213条の2 第1 項)。
もっとも、ここでも隣地所有者等の利益を保護するために、設備の設置や使用をしようとする者は、あらかじめその目的や場所等を隣地所有者等に通知しなければなりません(同条3 項)。
しかも、この場合は事後通知の定めがありません。
したがって、隣地所有者等が所在不明の場合には、民法の原則どおり公示(裁判所への掲示と官報への掲載)の方法により通知をしなければならないことになります。
現行の民法では、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、竹木の所有者に枝を切除させることができることとされています(民法233 条1 項)。
注意しないといけないのは、竹木の所有者に「切除させる」ことができるだけであって、自分で切除することは認められないのです(ちなみに、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、切除することができます(同条2 項)。
そのため、境界線を越える枝の切除にその所有者がどうしても応じてくれない場合には、裁判を提起するなどして切除を認めてもらうしかありませんでした。
改正後の民法では、現行民法の原則を維持しつつも、以下の場合には例外的に越境した枝を自ら切除できるとされました(改正民法233 条3 項)。
① 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず相当期間内に切除されないとき
② 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
③ 急迫の事情があるとき
以上のとおり、今回の民法改正では、隣地所有者等が所在不明となっているケースへの対策が拡充されたことになります。
もっとも、隣地使用権にせよライフライン設備の設置権にせよ、隣地所有者等が拒否する意思を示している場合にまで、自力で使用ないし設置を強行できるというものではありません。
隣地所有者等が反対の意思を示している場合には、あくまでも裁判手続によって権利を実現するしかありませんので注意が必要です(自力救済の禁止。売買の買主には目的物の引渡請求権がありますが、売主が引き渡してくれないからといって買主が売主から無理やり取り上げてはいけないのと同じ理屈です)。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2023年3月5日号(vol.278)>
※掲載時の法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。