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2023年3月29日
コラム
目次
私が過去に担当した離婚事件で、以下の論点が争いになった事例がありました。
その後も似たようなケースの離婚相談をしばしば受けることがありますので、個別の事案としてどのような結果になったのかを紹介したいと思います(事案は単純化・抽象化して記載しています)。
離婚時点で夫婦各々が所有している財産のうち、婚姻期間中に夫婦の協力により形成した財産は名義の如何にかかわらず共有財産として離婚の際の財産分与の対象となります。
その際の分与の割合は、基本的に2分の1ずつとされています(2分の1ルール)。
平均的な夫婦では、共有財産の形成に対する寄与・貢献の程度は平等であると推定されるからです。
財産分与には大きく3つの種類があります。
〇清算的財産分与
婚姻期間中に夫婦で形成した共有財産の清算という要素
〇扶養的財産分与
離婚後の一方配偶者の生計の維持のためという要素
〇慰謝料的財産分与
離婚を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する償いという要素
婚姻期間中に一方の配偶者が国家資格を取得するに当たって、他方の配偶者が授業料その他必要な費用を負担していた場合に、かかる事情を離婚の際の財産分与で考慮することができるか。
【問題の所在】
資格を取得した配偶者が離婚後にその資格を生かして就職したり自営で起業したりすることができるのであれば、資格取得費用を負担した配偶者は相手方の生計の維持のための費用を既に支払ったと見る余地があります。
そこで、資格取得費用を負担したことをもって扶養的財産分与を先行して行ったものと評価できないかが問題となります。
【裁判所の判断】
家庭裁判所は、資格取得費用の負担が、相手方の離婚後の生計維持を前提としたものであったかどうかという観点から判断すべきとしました。
そして、私の担当した事案については、資格の取得が、夫婦関係が悪化して離婚協議を始めた時点よりも10年以上も前であったことから、資格取得費用の負担が離婚後の生計維持を前提としていたものとは言えず、扶養的財産分与を先行的に行ったものとは評価できないとの結論になりました。
共働きの夫婦が増えている昨今、婚姻期間中に一方配偶者のキャリアアップのための費用を家計から支出するというケースは決して珍しいことではありません。
夫婦関係が破綻する前のまだ円満な状況下では、そのような支出はむしろ家計収入を増加させ、婚姻生活の経済的安定に資するための出費と言えるので、費用を負担した方の配偶者もその恩恵を受けうる立場にあります。
したがって、婚姻関係が破綻した後に敢えて資格取得の費用を負担したというような、離婚後の生活を見据えて費用を支出したことが明らかなケース以外では、扶養的財産分与と同視することはできないという発想によるものと考えられます。
婚姻期間中に一方の配偶者が個人的な趣味や嗜好のために家計から多額の出費(浪費)をしていた場合に、かかる事情を離婚の際の財産分与で考慮することができるか。
【問題の所在】
一方の配偶者が家計から趣味や嗜好といった専ら個人的な浪費のために多額の出費をしていたという事情がある場合、そのような浪費がなければ本来はもっと多くの共有財産が離婚時に現存していたはずだと言えます。
そうすると、浪費した配偶者は共有財産の形成に寄与・貢献したとは言い難いことから、単純に2分の1ルールを適用して現存する財産の半分を浪費した配偶者に分与しなければならないのでは何とも不公平感が拭えません。
【裁判所の判断】
家庭裁判所は、浪費を理由に共有財産形成への寄与・貢献の割合(すなわち2分の1ルール)を変更するには、「個人的使途」かつ「常軌を逸した」出費という要件が必要になるとしました。
そして、一方の配偶者が世帯収入の11.6%を個人的使途のために出費をした場合でも「常軌を逸した」出費に当たらないとした審判例があることを踏まえ、私の事案では個人的使途のための出費が世帯収入の11.7%程度であったことから、いまだ「常軌を逸した」出費とは言えないと判断しました。その結果、分与割合は原則どおり2分の1になりました。
「個人的使途」という要件はある程度分かりやすいと思います(例えばギャンブルや接待を伴う飲食店での遊興)が、「常軌を逸した」という要件は多分に評価を含む概念です。
結局は程度問題になるのでしょうが、夫婦別産制(民法762条1項)を建前とする現行の家族法制の下では夫婦各自が自分で得た財産を一定程度自分のために費消することは許容されるという発想があると思われます。
もちろん、だからと言って自分で得た財産を専ら自分のためだけに使っていいというわけではありません。
度を超すような場合は、モラルハラスメントや経済的DVといった離婚事由に該当する場合もあります。
以上はあくまでも個別の事例に対する個別の判断としてご紹介するものですが、今後似たような論点を含む事案に遭遇した場合見通しを立てる上での参考になると思われますので紹介しました。
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